生まれ来る偶然




 私があの方に初めて会ったのは長く雨が降りしきる夜でした。

 ここ最近の長雨で私は弱り、もうその場所から動く事ができませんでした。

 

 幸い、此処は深い森の中。

 重なり合った木々は辺りの光を遮るものの、同時に雨粒もある程度遮断することができます。

 最後の力を振り絞り、直接雨の掛からない所へ移動しました。

 もう、これで私に残された力はありません。

 周りには暗い樹木が生い茂るのみ。

 このまま、私は朽ちるのか。

 そう思った私の近くに複数の不穏な気配を感じました。

 野生の獣でしょうか。

 食事を求めて近づいてきたのかもしれません。

 弱りきった私が彼らの餌食となるのも自然の理の内。

 それが理ならば私は喜んで受け入れましょう。

 私は瞼を下ろし、視界を闇に包みました。

 私が動かない事を感じたのか、その気配たちはどんどん近づいてきます。

 遂にはその鼻先が私を捉えました。

 恐らく四足歩行の獣でしょう。

 荒い鼻息が私の肌をしきりに撫でます。



 これで、全てが終わる。



 やはり、私は異質だった。

 周りと異なるものを持ってしまった私は素直に生きることが出来なかった。

 ありがとう、この世界。

 短い間だったけれど、これで解放される。












 少し待ちました。

 しかし、いつの間にか先ほどまで感じていた不穏な気配は全く読み取れません。

 視界は私の意志で闇の中。

 感覚までも鈍ってしまったのか、気配だけでは辺りの様子が感じ取れません。

 様子を感じ取りたい私は闇を解いて光を受け入れます。

 目の前にいたのは一人の人間。

 力なく、地面にしゃがみ込んでいる私にはとても背が高く感じられます。

 先ほどまでの不穏な気配はどうやらこの人間が追い払ってくれたようです。

 その人間の後ろには数頭の獣が寝転がっていました。

 

 来い。



 確か、その人間はそう言ったと思います。

 その辺りの私の記憶は朧げです。

 何故ならそこで私の意識は何処よりも深く沈んでしまったのですから。













―了―

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